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財務分析における異常値の検証

自分なりの「物差し」をもち、徹底的にその原因を探り経営実態を解明しよう

企業を診る場合、財務分析が有力な手段であることは言をまたないが、企業の目利きにおいては、過去の決算状況の傾向(トレント)から財務内容の検証をする「動態分析」が必須である。動態分析のためには連続する数期分の財務諸表を入手し、そのうえで各勘定残高や損益項目、財務指標等のトレントを分析する。直前二期の比較だけでは十分な把握ができないので、少なくとも三期分のデータを揃える必要がある。トレントの分析にあたっては、「異常値」の有無を徹底的にチェックする。連続するB/SやP/Lを作成すると、各数値の推移動向が明らかとなるが、そのなかで特異な動きを示すものが異常値である。

たとえば、売上高が毎期一〇%前後の上昇基調にあるにもかかわらず、ある期の粗利益率が低下しているような場合は、その期の売上原価の構成要因になんらかの異常が発生した可能性がある。あるいは、「その他流動資産」に常時同額の勘定が計上されている場合には、渋滞資産の存在が疑われる。勘定残高が常時同額ということも、異常値の典型であることに留意しなければならない。このような異常値を発見したら、どのような些細なことでも納得のいくまで内容や原因を究明する。このプロセスが、企業の実態を浮彫りにすることにつながるからである。この際に試されるものが、目利きにあたる審査マンの問題意識、目的意識、プロ意識(当事者意識)である。

異常値チェックの精度を高めるには、自分なりの「物差し」を豊富にもつことが役に立つ。たとえば病院の場合、入院患者と外来患者の診療収入割合、単位病床当りの入院患者数、医療スタッフ(医師、看護師等)当りの患者数、患者当りの医療設備投資額などの基準数値を事前に把握しておけば、より的確な異常値の発見が可能となる。なお、企業の定性的側面の異常性のチェックも大切である。いつも定例的に業況の報告に顔をみせる社長が現れなくなった、金融機関から出向していた財務部長が突然戻ってしまった、経営責任者全員が出払っており訪問しても無駄足となることが多くなった等の事象があれば、企業の決算面に表れていないなんらかの事態の存在がうかがわれる。

目利きのポイント ROA

使用総資本事業利益率をROAとして用いる

企業についての目利きを進めるうえで損益状況の分析(収益性分析)は欠かせない。この分析を通じ、企業の収益力(収益水準、安定性、収益構造)を判定し、収益の将来予測のための因子・法則性などを探るのである。それにはまず、財務実態を調査する。財務諸表における利益調整や粉飾を消去・修正し、実質期間損益、実態P/L、実態B/Sを作成する。次に、実質期間損益、実態P/Lのこれまでの推移比較から、各決算期における収益の変動要因を探る。それが外部要因または内部要因によるものか、一過性か構造的なものかなどを明らかにして、収益の安定性を評価する。そして収益力の水準を診る。その場合は、資本利益率を用いることが有効であり、それをさらに資本回転率(効率)と売上高利益率(利幅)に分解して、収益の多寡と投下資本との十分性およびその要因を検証する。

最後に、損益分岐点分析や生産性分析を補助ツールとして、現状の収益力を構成している要素を探り、収益の基本構造を診る。収益性分析を効率的に行ううえでの有効なアプローチは、使用総資本利益率(ROA)を用いる方法である。ROAにはいくつかの態様があるが、金融機関の立場からは使用総資本事業利益率が最適であろう。この場合の分子となる「事業利益」とは、本業の利益である営業利益に金融資産から生ずる受取利息・配当金を加えたもの、B/Sの貸方から発生する調達コストを負担する直前の利益であり、事業が生み出すキャッシュフローの総量であるEBITDAにおおむね等しい。

このROAを、前述のように使用総資本回転率と売上高事業利益率とに分解して検証することにより、現状の収益性を規定している要素を具体的に明らかにすることができる。ROAを用いた収益性評価の手法としては、ベンチマーク(全産業平均など客観的指標)との比較、過去数期間にわたる比率の推移傾向と水準値の検証、国債利回りとの比較(ROAが国債利回りより低ければ、リスクある事業に資本投下する意味がない)、負債利子率との比較(ROAが負債利子率より低ければ、事業がジリ貧になっているおそれがある)などがある。

目利きのポイント 事業素質

事業領域、商品の内容・特質、業界動向の面から調査しよう

融資先企業の事業内容を熟知することは「目利き」の第一歩である。そして事業内容を知るには、まず、事業の基盤となる事業素質の良否を調査する必要がある。そのための切口としては、「事業領域」「中核である製品・商品あるいはサービスの内容、特質」「業界動向」があげられる。この認識が不十分のままでは、企業の事業内容を適切に評価することはむずかしい。事業領域とは「経営理念に基づき、どんな事業で成長・発展していくかを示す企業の拠って立つ基盤」のことで、簡単にいえば「企業は何を生業(なりわい)としているか」ということである。

そこでは事業領域と経営理念の整合性をチェックし、さらに事業領域の設定が「顧客志向」となっているかを検証する。自社の製品やサービスに対する思い入れが激し過ぎ、顧客ニーズを軽視した独り善がりの経営のもとでは、さらなる事業の成長・発展は望めない。次に、事業の中核である製品・商品やサービスの内容や特質、業界内でのシェアを診る。すなわち、その製品・商品やサービスがPPM理論でいう「商品のライフサイクル」のどの段階にあるかを調査する。

市場の成長性は見込まれるが当該企業のシェアが低く投人資本額に見合う収益確保が困難な「問題児」商品であれば、今後のシェア獲得見通しいかんによって事業の先行きが左右される。企業の市場シェアが高く市場自体の成長も旺盛な「花形」商品であれば、シェア維持のために引き続き資本投下が必要である。市場の成長は鈍化しているが企業の市場シェアが高く安定的な売上確保が可能な「金のなる木」であれば、資本の追加投人は少なくて済み、経営上のうま昧は大きい。しかし近い将来、成長が止まり商品としての価値もなくなる「負け犬」になることが予想される。

事業展開としては、「花形」や「金のなる木」を数多く所有しながら、次のヒット商品をねらう「問題児」段階の研究開発を怠らない姿勢が望ましい。「負け犬」商品からは早期撤退することが当然である。業界動向については、業界全体の成長性と特徴を把握し、対象企業がそのなかで生き残っていけるかどうかを見極める。業界の成長性と特徴については、技術革新、代替製品の脅威、業界を構成する企業数や競争の状況、他の業界との交渉力等をチェックし、企業の生残り見通しについては、そのための具体的戦略が描けるか否かの観点から検証する。

目利きのポイント 償還能力

期間一〇年超の融資は、企業の償還能力が乏しいことの証左

長期性資金の融資判断においては、融資先企業の償還能力を適切に判定しなければならない。すなわち、企業が将来獲得できる償還財源(税引後当期利益+減価償却費-社外流出)によって要返済債務を償還するにはどの程度の年数を要するか、その償還財源たるキャッシュフロー創出の確実性はどの程度のものか、キャッシュフローの創出見込みに狂いが発生した場合に別途の償還財源造出策(遊休資産の売却、増資、借換えなど)を検討できる余地があるか等の点について検証を行うことが必要である。資金使途が設備投資の場合には、設備が稼働後に新たに獲得できる償却前利益や当該設備の耐用年数、補修や追加投資の見通し等を検証する。

ホテルなど装置産業の大型投資案件においては、一般の長期融資よりさらに長い償還年数を要することになるので、補修準備金積立や追加投資等の余力を確かめなければならない。有価証券投資等については、その投資リスクを見極める必要があるし、長期運転資金の融資に際しては、実質的な資金使途を吟味しなければならない。赤字資金など後向きの使途が隠されていることが多いからである。償還に要する年数が長ければ、長期融資の信用リスクはそれだけ大きくなる。一般的に、事業性長期資金融資の適正な償還年数は五年から七年程度、長くとも一〇年であろう。金融検査マニュアルにおいても、経営改善計画が合理的で実現可能性が高いと判断される計画期間の基準はおおむね五年を原則とし、計画の進捗状況が順調である場合にはおおむね一〇年間以内の計画であってもこれを認めるとされている。

企業の先行きを合理的に予測できる妥当な期間は、せいぜい一〇年間ということであろう。したがって、装置産業等に対する融資や超長期にわたるプロジェクト・ファイナンスのようなケースを除いて、償還年数が一〇年を超えるような長期融資案件は、融資先企業の償還能力が不十分ということになる。かつてバブル期には、「一〇〇年ローン」と称して、金利さえ支払えば返済期限を定めない融資を売物にしたノンバンクがあった。いざという場合は担保不動産を処分すれば回収できるという目論見であったが、担保価額が下落して巨大な損失を被った結果、あえなく倒産してしまった。金融機関の顧客にも、金利さえ支払っていれば返済を迫る必要はないではないかと主張する経営者がいるが、「返済されてこその融資」であるから、それには応じられないのである。

目利きのポイント 経営者

経営者の資質等は最重要検証項目

企業の命運は経営者の「出来」にかかっている。特に中小企業においてはワンマン経営が大部分であるから、企業と経営者は一心同体であるといってもよい。したがって、企業の目利きをするには、経営者およびそれを支える経営スタッフの適切な評価が何よりも重要となる。経営者に要求される資質としては、企画力、創造力、行動力、統率力、判断力、知見、誠実さ、人間味、心身の健康などが列挙されるが、一般的にこれらのすべてを十分に備えた経営者には、あまりお目にかかれない。通常はこのうちのいくつかが欠けているものである。したがって、経営者自身が自分の欠点(欠けている資質)を自覚し、それを補うための人材や組織を周りに置いて、適切にそれを活用しているか否かを診ることが大切になる。経営者評価のポイントとしては、おおむね次のような点があげられる。

①客観的評価に努めること
担当者等一人の人物の主観で評価がゆがめられることがないよう、他の評価者との複眼的観察を行い、経営者の人物像を明らかにする。

②企業のトップにふさわしい資質やスキルの持主であることの確認
前記の資質のなかでも、企画力、行動力や統率力、従業員や取引先などから信頼を得られるような知見と誠実さは、特に重要なものである。経営者には、自ら考え行動するほかに、人を 動かす器量が求められるからである。ただし、発言と行動が一致しない人物は、金融機関取引の相手方としては不向きである。

③経営理念、経営戦略の確認
優れた経営者は、確固たる経営理念をもち、それを全社員に浸透させ、その理念を実現させるための経営戦略の策定・実行に余念がない。戦略なき経営は「糸の切れた凧」同様で、安心できない。

④創業者、二世経営者など経営者の立場の考察
経営者が企業の創業者である場合は、ワンマン経営の行過ぎと後継者の育成状況をチェックする。現経営者の子息が後継者である場合は、その者に経営者たる最低限の資質が備わっており、かつ、よき補佐役がいることが肝要である。二世経営者は、先代の遺産を守ろうとするあまり消極経営になるか、先代を超えようとして事業拡大を図り失敗することが多いので注意したい。

融資の目利き

融資担当者がすべて企業の「目利き」になれるわけではない

不良債権の処理にメドがついたことを受け、金融機関の目は再び融資の拡大に向き始めた。しかし、バブル以降の膨大な不良債権の後始末に苦しんだあとだけに、かつてのようにむやみにボリュームの嵩上げを図ることは避け、資産の良化につながるような融資の発掘にねらいを絞っている。そこで頻繁に用いられるのが「目利き」という言葉である。「目利き審査」「目利きのできる人材の育成」「企業に対する目利きにより担保に頼らない融資を取り上げる」などの用語や文脈で、盛んに使われている。「目利き」とは、「(書画・骨董、刀剣等の)真贋や良し悪しを見分けること(又はそれができる人)」と説明されている(『新明解国語辞典』(三省堂))。元来骨董等の鑑定に用いられる用語であるが、金融機関の融資業務との絡みでは、「融資先の経営実態や事業の成長性・将来性を的確に診る(見極める)」といった意味合いになろう。

もう少し具体的にいえば、企業の事業内容を検証して今後の収益力や競争力を診る(動態分析)とともに、それを支えるインフラとしての企業の経営体力の実態分析を行う(静態分析)ことである。しかし、「目利き」はだれにでも簡単にできるというものではない。鑑定家としての「目利き」には「名人」「達人」といった意味合いもあるほどで、相当の修練が必要である。したがって、金融機関の融資審査担当者や決裁者といえども、だれもが「目利き」になれるわけではない。一人の金融マンが、多くの担当先企業の事業内容を完全に理解し業界動向にも通暁して、企業の先行きを的確に見通すことなど、神業に近いというべきであろう。

そのような人材を育成することは不可能ではないが、金融機関経営の観点からはいかにも効率が悪い。そこで必要なのは、金融機関が組織全体として「目利き」となることである。顧客と接している営業店の担当者は、生きた顧客情報を的確に入手し適切に加工して報告する。その他関係者も顧客にかかわる情報を逐一報告する。本部の業界調査部門は専門的な立場から業界や社会経済の動向等マクロ情報を適宜入手し、融資審査をサポートする。この結果、金融機関全体としての「目利き」が可能となる。これからの金融機関には知識集約型経営が求められる。各人、各部署の知識や能力がバラバラに機能しているだけでは、総合的経営力の発揮はできない。融資の「目利き」もその一環として理解されるべきであろう。

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