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貸し手責任

折衝段階で、融資の事前約束をしたと相手方に認識させないように注意しよう

金融機関が融資義務を果たさないために損害を被ったとして、相手方から損害賠償を求められるケースがある。「融資を約束していたにもかかわらず、銀行から融資を断られたので信用を失い、事業継続に大きな支障をきたした」というクレームが典型的なものである。このような「貸し手責任」の理論は米国で発展してきたものであり、単に融資義務を果たさなかったことだけでなく、融資先に人材を派遣していた金融機関が融資先の経営監督を怠ったという理由で、損害賠償を求められたケースもあるという。そこまで先鋭的ではないが、最近は日本でも、金融機関が貸し手としての義務を果たさなかったとして、その責任を追及されるケースが見受けられるようになった。

融資取引においては、事前に融資条件の合意ができている場合には、融資先がその条件を充足することを前提に金融機関が融資実行の約束をすることがある。口頭での約束のこともあるし、「融資証明」のような文書で行う場合もある。いずれの場合も融資先としては「融資の予約」が成立したと認識することになるが、ここで双方の認識にギャップが生ずる余地がある。たとえば融資先自体の信用力がその後悪化した場合の扱いについては、金融機関の認識と融資先のそれとにギャップが生ずることが多い。金融機関としては、与件が変わったので融資の約束は当然キャンセルされると考えるが、融資先はそのように考えない。

このような認識ギャップがある場合、融資先としてはそれを金融機関の一方的な不履行行為ととらえる可能性が大きい。大型設備融資案件を数度に分けて実行する約束のもと、初回融資実行後に相手の信用度やプ口ジェクトの与件が変わり、二回目以降の融資をストップしたようなケースがこれに当たる。さらに、融資取上げの折衝過程で、支店長など決裁権限があると融資先が認識して当然と考えられる者が融資応諾の意思表示をした場合は、たとえその者が無権限者であっても、金融機関が融資の約束をしたものとみなされるおそれがある。したがって、融資折衝においては軽はずみな言動は厳禁である。日本においては、貸し手責任は比較的狭く解釈されてはいるか、相手方が融資の約束があったと認識するに足りる状況があれば、金融機関が不法行為責任を問われる余地は大きいので注意が必要である。