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融資の目利き

融資担当者がすべて企業の「目利き」になれるわけではない

不良債権の処理にメドがついたことを受け、金融機関の目は再び融資の拡大に向き始めた。しかし、バブル以降の膨大な不良債権の後始末に苦しんだあとだけに、かつてのようにむやみにボリュームの嵩上げを図ることは避け、資産の良化につながるような融資の発掘にねらいを絞っている。そこで頻繁に用いられるのが「目利き」という言葉である。「目利き審査」「目利きのできる人材の育成」「企業に対する目利きにより担保に頼らない融資を取り上げる」などの用語や文脈で、盛んに使われている。「目利き」とは、「(書画・骨董、刀剣等の)真贋や良し悪しを見分けること(又はそれができる人)」と説明されている(『新明解国語辞典』(三省堂))。元来骨董等の鑑定に用いられる用語であるが、金融機関の融資業務との絡みでは、「融資先の経営実態や事業の成長性・将来性を的確に診る(見極める)」といった意味合いになろう。

もう少し具体的にいえば、企業の事業内容を検証して今後の収益力や競争力を診る(動態分析)とともに、それを支えるインフラとしての企業の経営体力の実態分析を行う(静態分析)ことである。しかし、「目利き」はだれにでも簡単にできるというものではない。鑑定家としての「目利き」には「名人」「達人」といった意味合いもあるほどで、相当の修練が必要である。したがって、金融機関の融資審査担当者や決裁者といえども、だれもが「目利き」になれるわけではない。一人の金融マンが、多くの担当先企業の事業内容を完全に理解し業界動向にも通暁して、企業の先行きを的確に見通すことなど、神業に近いというべきであろう。

そのような人材を育成することは不可能ではないが、金融機関経営の観点からはいかにも効率が悪い。そこで必要なのは、金融機関が組織全体として「目利き」となることである。顧客と接している営業店の担当者は、生きた顧客情報を的確に入手し適切に加工して報告する。その他関係者も顧客にかかわる情報を逐一報告する。本部の業界調査部門は専門的な立場から業界や社会経済の動向等マクロ情報を適宜入手し、融資審査をサポートする。この結果、金融機関全体としての「目利き」が可能となる。これからの金融機関には知識集約型経営が求められる。各人、各部署の知識や能力がバラバラに機能しているだけでは、総合的経営力の発揮はできない。融資の「目利き」もその一環として理解されるべきであろう。