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融資の王道とは

融資業務に王道はないが、顧客本位の姿勢とルール遵守だけは重要である

これまで融資業務の基本的な携わり方について、繍々述べてきた。このような考え方に立って融資業務を進めれば、融資事故は原則として回避できるであろう。しかし実務においては、これらの基本にぴたりと適合しない融資案件にも頻繁に遭遇する。そのような場合に、それらを融資対象外として排除することは可能だろうか。特に中小企業向け融資の場合は、これら基本要件から少し外れた案件が多いのも事実であって、実務的には、それらの問題点をふまえたうえでの融資取り上げ方法を検討すべきである。

融資審査のポイントは、返済と利払いの確実性が見通せることである。それには資金使途と返済財源の確認が不可欠である。しかし資金使途が在庫資金や赤字補填資金等、後ろ向きのものである場合はどうすべきか。相手がメイン先でなければ、割り切って謝絶することもできよう。しかし自行メイン先や地域有力企業等が相手の場合、あるいは金融円滑化措置への対応上、簡単に謝絶できないケースも多い。このような時は相手と問題点についてよく話し合い、その改善策や解決策を検討して、融資事故の発生を極力回避する工夫をしたうえで対応することになろう。安全性に不安が残る分は担保等により信用リスクの軽減を図り、金利を高めに設定しリスク負担増に対応しつつ収益面のメリットを強化する。

また、担保や保証については全面的にそれに頼るのではなく、保全上必要な部分だけをカバーできれば良いと考える。たとえば資金繰り計画をチェックした結果、融資後二年間は返済能力に懸念が認められないと判断できるならば、当座の二年分の返済予定部分は保全対象から除外できるだろう。長期融資の全額が要保全対象である必然性はない。融資業務は「安全第二が基本であるが、相応のリスクテイク姿勢がなければ商売にならないし、地域金融の円滑化に寄与することもできない。両者の兼ね合いが重要であり、リスクテイクの全体方針が決定されていれば、計量化されたリスクと安全性のバランスを取ることは十分可能であろう。

時に「融資の王道を歩め」といわれるが、それは融資業務の基本を忠実になぞることではない。融資業務にはそこから外れてはならない「王道」というものはない。基本から少々ずれた案件を王道に外れるとして回避するだけでは商売にならないのであって、基本を認識しつつ顧客のニーズにどのように向き合うかということが、金融機関としての腕の見せ所なのである。ただしどのような場合も、「顧客本位の姿勢」と「ルール(法令・規則等)の遵守」の二点は踏み外してはならない。金融機関側の理屈で顧客に迷惑を掛けること等は論外であり、ルールを逸脱した営業展開は金融機関の内部規律を歪める結果となって、ともに金融機関の経営を損なうことにつながるからである。

貸し手責任

折衝段階で、融資の事前約束をしたと相手方に認識させないように注意しよう

金融機関が融資義務を果たさないために損害を被ったとして、相手方から損害賠償を求められるケースがある。「融資を約束していたにもかかわらず、銀行から融資を断られたので信用を失い、事業継続に大きな支障をきたした」というクレームが典型的なものである。このような「貸し手責任」の理論は米国で発展してきたものであり、単に融資義務を果たさなかったことだけでなく、融資先に人材を派遣していた金融機関が融資先の経営監督を怠ったという理由で、損害賠償を求められたケースもあるという。そこまで先鋭的ではないが、最近は日本でも、金融機関が貸し手としての義務を果たさなかったとして、その責任を追及されるケースが見受けられるようになった。

融資取引においては、事前に融資条件の合意ができている場合には、融資先がその条件を充足することを前提に金融機関が融資実行の約束をすることがある。口頭での約束のこともあるし、「融資証明」のような文書で行う場合もある。いずれの場合も融資先としては「融資の予約」が成立したと認識することになるが、ここで双方の認識にギャップが生ずる余地がある。たとえば融資先自体の信用力がその後悪化した場合の扱いについては、金融機関の認識と融資先のそれとにギャップが生ずることが多い。金融機関としては、与件が変わったので融資の約束は当然キャンセルされると考えるが、融資先はそのように考えない。

このような認識ギャップがある場合、融資先としてはそれを金融機関の一方的な不履行行為ととらえる可能性が大きい。大型設備融資案件を数度に分けて実行する約束のもと、初回融資実行後に相手の信用度やプ口ジェクトの与件が変わり、二回目以降の融資をストップしたようなケースがこれに当たる。さらに、融資取上げの折衝過程で、支店長など決裁権限があると融資先が認識して当然と考えられる者が融資応諾の意思表示をした場合は、たとえその者が無権限者であっても、金融機関が融資の約束をしたものとみなされるおそれがある。したがって、融資折衝においては軽はずみな言動は厳禁である。日本においては、貸し手責任は比較的狭く解釈されてはいるか、相手方が融資の約束があったと認識するに足りる状況があれば、金融機関が不法行為責任を問われる余地は大きいので注意が必要である。

債務者区分

融資先の財務内容や経営上の問題点、特質等を十分に把握しよう

自己査定作業において債務者区分の判定は最も頭を悩ます部分である。これによって融資先への今後の対応方針が事実上決定するため、特に「その他要注意先」「要管理先」「破綻懸念先」の候補先については、以後の取引支援の判断も絡んで、画一的・形式的には割り切れないものがある。金融機関ではコンピュータシステムを利用した判定方法が導入され、たとえば、定量的項目について自動的に判定したうえで、定性的項目による修正、同一利害先の調整、外部格付による修正などを施して、最終的な債務者区分を判定するようなことも行われている。

しかし、パソコン上で行われる財務分析の実効性は営業店における融資先の実態把握の精度にかかってお、また定性的項目による修正段階では判定者の恣意が加わるおそれがある。したがってこのシステムにおいても、実態に即した債務者区分判定のためには、やはり、融資先の財務内容や経営上の問題点、特質等を十分に把握しておくことが基本となる。いったん要注意先以下の問題先として区分した融資先を上位区分へ修正する場合は、それだけの具体的な理由と裏付けとなるデータが必要である。一般的に債務超過先の債務者区分判定においては、今後の獲得利益によって債務超過を解消することが可能な年数を尺度として用いる。それが一年以内であれば「正常先」とみなせる余地があり、三年以内であれば経営が回復軌道に乗っているものとして「その他要注意先」と判定できる可能性がある。

ただし、貸出条件緩和債権のないことが前提である。これが五年以内までならば「要管理先」とする余地があるが(なんらかの経営改善策が講じられていることが必要)、五年を超える状況の場合には、原則として「破綻懸念先」以下となるであろう。もちろん、中小企業等の場合には代表者等の資産状況や収入状況を勘案して判断する必要があるし、親会社等が支援姿勢をみせているならば、その支援内容を検討して判定することも可能であるから、形式的な判定は避けなければならない。しかしそうであっても、債務者区分の上位シフトを可能とさせるファクターは、今後の収益獲得見通しの確実性に尽きるのである。

融資稟議

ポイントは「資金使途および融資金額の妥当性」「問題点の有無」「融資取上げのねらい」の三点

融資案件取上げの可否判断は稟議システムを通じて行われる。このシステムは決裁まである程度の時間を要するが、一人の人物の独断で採否が左右されることなく、融資案件を客観的かつ公平に評価できる点で優れたものである。融資案件の稟議は稟議書(申請書、協議書)という書面を通じて行われる。担当者以外の関係者や決裁者(特に本部の審査担当部)は、原則として菓議書を通じてしか融資先の情報に接することができない。

したがって融資衆議のスムーズな決裁は、融資先の信用情報等を含めて融資案件の記述内容で決まり、ひとえに担当者の衆議書起案能力にかかっている。しかし稟議書は業務文書であるから、ことさら上辺を飾る必要はなく、稟議に必要な内容を率直かつ簡潔に記載すればよい。結論を先に、次いでそう判断した理由を明瞭に記載する。冗長な説明が続く稟議書は、多忙な決裁者や衆議関係者をイライラさせるだけで効果は薄い。そのような衆議書に限って論点のポイントがずれたものが多く、担当者の自信のなさが透けてみえるようである。融資稟議に際して外してはならないポイントは、次の三点である。

①資金使途および融資金額の妥当性
融資案件の真の資金使途を検証し、融資申込金額がそれに適合したものであることを確認する。

②問題点の有無
案件内容に問題点があれば率直に記載し、それへの対応方針を明らかにする。衆議システムにおいては衆議書に記載された内容がすべてであり、問題点を隠した衆議は重大な職務違反行為となる。

③融資取上げのねらい(営業店意見)
その融資案件を取り上げたい営業店(起案者)の意見を明確にする。問題点がある場合も、対応策を明示しつつ営業店としての考えを率直に述べる。営業店意見を欠いた稟議書は、融資案件の単なる取次書にすぎない。稟議書の記述は、「正確に」「具体的に」「簡潔に」をモットーに、要領よくまとめ上げる。ワープロの漢字変換ミスなどがないよう注意する。

資金使途の確認

融資審査における最重要テーマ

融資案件審査の第一歩は「資金使途の確認」である。融資がどのような目的に利用されるか、その目的(資金使途)は融資先の事業内容や経営体力から判断して妥当なものか、総所要額(調達額)は事業計画等と整合しているか、資金投下対象事業等から獲得できるキャッシュフローはどの程度か、事業計画等の見通しは経済的合理性に適っているか、万一失敗したときの対応策が考慮されているか等を、納得がいくまで検証することが必要である。資金使途については、申し込まれた表面上の使途にとらわれず、その融資が必要とされる真の理由(要資事情)を明らかにしなければならない。後向きの資金使途(赤字資金や焦付補填資金など)は、表面上は経常運転資金や増加運転資金として申し込まれることが多いので、資金繰表や資金運用表等を利用して要資事情を把握することは、融資の安全性を確保するうえで必須の要件である。

また、短期の運転資金として申し込まれるものは、決算・賞与資金や一時的つなぎ資金のように返済引当てが把握できるものを除けば、大部分が長期運転資金としての需要である。したがって、長期融資として対応することがスジであり、それを安易に短期融資で取り上げると、自己査定において開示債権(貸出条件緩和債権)とされるおそれがある。かかる要資事情の把握が不十分な場合は、前記のチェック事項がすべて不完全なものに終わり、融資の安全性が確保できないことになる。融資審査は「資金使途の確認→返済財源の確認→返済条件の妥当性の検証→保全条件の検証」というステップを踏んで行われるが、資金使途が明確になれば、それによって返済財源が明らかになり、返済条件(返済期間)も決まってくる。

短期つなぎ資金の場合は特定された売掛金等が返済財源になり、経常運転資金の場合は正常に回転し資金化される営業資産が引当てになるが、それ以外の長期性資金は将来の獲得利益(キャッシュフロー)が返済財源になる。当該融資に係る調達総額と年間獲得利益との比較で融資の返済期間が決まる。これを無視して返済期間を短縮すると、後日貸出条件の変更につながるおそれがあり、融資先が要注意先にランクダウンする可能性がある。したがって、融資審査とは、資金使途の確認に尽きるといってもよい。

中小企業向け融資

リレーションシップバンキングに基づく新しいビジネスモデルの具体化が期待される

平成二一年の金融円滑化法制定を契機に、金融検査マニュアル「金融円滑化編チェックリスト」が公表され、中小企業等の経営改善や事業再生のために金融機関が融資先へのコンサルティング機能を発揮することが求められることとなったが、これはリレバンの取引特性の活用と一体を成すものである。中小企業向け融資は現在の金融機関の融資業務の中核である。大企業の場合と同様に直接金融の道も開かれてきたとはいえ、大多数の中小企業にとって、金融機関からの借入れはなお主要な資金調達手段であり、比較的旺盛な資金需要は金融機関にとって大きなビジネスチャンスとなっている。

特に地域金融機関にとって、地域経済の中核である中小企業取引の増進はダイレクトに経営力アップにつながるものであり、そのなかでも融資業務は大きな位置を占める。中小企業向け融資の拡充とそれに伴う安定的収益の確保は、地域金融機関の最重要経営課題であろう。一方、金融庁は平成一四年六月に「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕」を公表(平成二〈年二月に改訂)し、特に地域金融機関に対してリレーションシップバンキング(リレバン)をふまえた中小企業向け融資の取組み方のビジョンを示している。

すなわち、中小企業融資に係る債務者区分にあたっては、査定基準の形式的・機械的適用を避け、継続的な企業訪問等を通じた企業の定性的経営情報の把握やきめ細かな経営相談、経営指導等による企業再生へのアプローチといった、金融機関から企業への働きかけ度合いを重視し、企業実態に即して判断すべきものとしている。またリレバンが目指すものは、一言でいえば「持続可能な地域社会づくり」への具体的な貢献であり、そのための中小企業向け融資業務の再構築である。地域金融機関には、地域住民の金融資産が集中しており、それを地域の問題解決に向けて有効に振り分ける役目がある。

したがって地域金融機関は、地域にとって有用な「信用創造・リスク仲介機能」を果たすことにより、従来の担保に依存した「質屋融資」から脱却し、新しい中小企業向け融資のビジネスモデルの構築が求められているといえよう。たとえばそれは、地域企業の創業、発展、再生の各ステージで、地域の特性を生かして事業価値を高め、事業の将来性とそれに伴うキャッシュフロー予測に基づいた融資業務を展開する、あるいは、経営改善や事業再生にかかる適切なコンサルティング機能の発揮・展開により、中小企業等の資金繰り改善や経営体力の向上に寄与できるよう努める、といったものであろう。それができあがったとき、各地域に適合した個性あふれる金融機関ごとのリレバンが出現するのである。